蒼の歩み
私はすっかりその場で呆けていた。今までのこの流れは、一体何だったのだろう。



「……帰ろ」



私も、さっさと帰ろう。明日も仕事だ。そう思って足を動かそうとしたら



「……!」



いつの間にか、先ほどの男性が目の前に立っていて、私は驚いた。



「これ。俺、名刺とか持ってなかったから」



これ、と差し出された手には。一切れの紙。



「俺のアドレス、書いておきました」



……どうやらこの場を離れたのは。明るいところで文字を書くためだったらしい。



「ありがとうございます……!」



ソレを受け取り、私は笑った。そしたら、彼もつられたのか小さく笑みを零してくれた。



……変なの。



私の一連の行動も、この気持ちも。慣れない行動をとったせいか、若干緊張している私。……が、相手はなんとでもないというような顔をしている。も、もしかして。逆ナンとかと思われた?



「別に、逆ナンなんざそんな風に思ってないけど」



あれ。私、声に出してたかな。



「俺、普段こういうことしないのにな」



うーん、と彼は頭をポリポリとかいた後。今度こそじゃあな、と。此処から姿を消していった。

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