蒼の歩み
……しかし。1人暮らしの男性の家にお邪魔したのは言うまでもなく初めてで。いけないことだとはわかりつつも、ついつい周りを見渡してしまった。



綺麗に、整頓された部屋。私が来るからというわけではなく、きっと普段からこういう状態なのだろう。目立つところをあげるとすれば、机の上の書類ぐらい。



部屋の広さも、正に1人暮らしといった感じの大きさで。下宿暮らしの私の部屋に、1つ部屋をプラスしたような感じだ。



少しだけ、落ち着かない。何なのだろうかこの妙な緊張感は。……しかし、そういった心情を悟られぬように私はいつも通りに紅茶を口に運ぶ。いつもと違うのは、場所だけだ。



空になった私のカップに蒼君はいち早く気づき、2杯目を用意してくれた。



「1人暮らし、どれくらいしてるの?」



私はいつものように、話題を振ってみる。



「そうだなー、何年目になるかねぇ」



はぐらかすことはあるかもしれないけれど。彼は、質問したら真面目に答えてくれるし、ノリもいい。



「そんなに長いんだ?」



「此処にずっといるわけじゃねーんだ、仕事柄転々としていてね」



「そっかぁ」



……とりあえず、1人暮らし暦が長いということはわかった。下宿暮らしの私とは違って、蒼君は料理が上手いのだろうか。



私の場合、朝・夜ご飯はもちろん、希望を出せばお弁当も用意してくれるので、料理というものを恥ずかしながら滅多にしない。1人暮らしより下宿のほうが安く済むというのが表向きな理由だが、実はそういった炊事が面倒なので下宿を選んだ私は、なんて女子力のない女なのだろう。
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