蒼の歩み
隠すことでもないのに、嘘はつきたくないが本当のことも言いたくなかった私は、黙っていた。すると、彼がトイレに行くと立ち上がったのでこの話題は終了した模様。



ん、と小さく頷き、私は空になったカップを見つめていた。




それにしても。1人暮らしスキルはある程度兼ね備えている彼、仕事柄住居を転々としているらしい彼。社会人で、それなりの立場らしい彼。おまけに、年齢不明。恐らく20代後半だろうけれど。



蒼君って一体何者なのかな、と。大げさに考えていると、私の目線は机の上の書類に注がれた。……よくない考えが、働きだした。もしかしたらあの書類は、仕事関連のものなのだろうか。アレを見れば、少しは蒼君のことが知れる?



……いけないことだとはわかっていても、彼がトイレから出てくる間にチラ見だけでもと邪な考えをしていたら、自然と足は机に向かっていた。



そこに辿り着くと、目の前には裏返しにされた白い紙が何枚か。流石にひっくり返してまで内容を確認しようと思わなかった私は、素直に元いた席に戻ろうとした、その時。



私の瞳は、また余計なものを捉えてしまった。
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