蒼の歩み
「ね、ねぇ蒼君……」



「なんだ?」



「……何でもない」



「そっか、何でもないなら行こうか」



そう言って蒼君は私の肩を後ろから軽く押した。



……あんなに紅茶を飲んだから。私、今すごくモジモジとしている。しかしこんな状態、蒼君に悟られたくない。自分より背の高い彼の様子はいかがなものかと目線を上げ見上げてみると、何やら含み笑いをしている。



……ん?



なんで、そんな表情しているの。蒼君。



「なぁ、真歩。俺な」



「は、はい」



突然名前を呼ばれて肩がビクンと跳ねる。何でしょうか。





「……俺な。我慢できずに今にも漏らしちまいそうでモジモジ泣きそうにしてんのを眺めるのはいいなあと思うんだ」



……はい?



一瞬、彼が何を言っているのか理解ができなかった。でもすぐに私は悟った。



私の状態、バレてる。



そして、薄々わかってはいたけれど。



「真歩って、面白ェのな。淹れたら淹れるだけ飲んじまうんだもん。俺の思い通りにいきすぎて、もう」



笑いながらそう言う彼の言葉を頭に入れながら私は思う。




ああ、この人、Sだ。




早く行こうぜ、と言う彼の言葉とは裏腹に、この辺の道がわからない私は彼の後ろをついて行くしか術がなく、ゆっくり、ゆーっくり歩く彼の横をついて歩いていったのだった。




「……蒼君のバカ」



蒼君の意図がわかり、俯きがちにこう呟くも彼は知らん振り。



「ん、何だって?腹にパンチしてほしいって?」



「そんなこと言ってない!もう!」

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