蒼の歩み
ついに映画の日がやってきた。普通のカップルのデート時の待ち合わせ時間は、午前中やお昼過ぎといったところだろう。が、私達の待ち合わせ時間は、彼の生活時間帯に合わせて夕方頃に決めた。いつも喫茶店で会うよりもちょっぴりだけ早めの時間。



待ち合わせより30分も早い刻を示している腕時計に目をやりながら、思う。蒼君まだかな、とか。果たしてこれはデ、デートなのかな。とか……。



無難にワンピースを着てきたけれど。特段気合を入れているようにも見られないだろうし、変ではないはず。



そんなことを思っていると、不意に視界が暗くなる、と同時に目の辺りに触れた温かさ。そして



「だーれだ」



の声。聞きなれた低音ボイスに安心しつつ、今時こういうことする人って本当に居るんだなと、何故だか暖かい気持ちを抱きながら、己の目元に感じる温かい手を私は掴んだ。



「蒼君」



と、答える私。すると、正解。と頭をぽんぽんと撫でられた。



周りの目があることもあり、その行為に私は照れてしまって思わず、辞めてよと手を払いのけてしまった。……気を悪くしたかなとチラリと相手の様子を伺うと。



悪戯っ子のような笑みを浮かべながら後、行こうか、と手を差し伸べてきた。私は黙ってその手を掴む。



……なんか、蒼君のこういうところも好きだな。

< 49 / 142 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop