蒼の歩み
そんなようなメールのやり取りをした数日後。私はまた……、見かけてしまった。



前と同じお店で。……蒼君と、女性の姿を。相談に乗っているだけというのはわかっていても、蒼君が女の人と一緒に居る光景を目にすると、何故だか胸が締め付けられるような苦しさを感じてしまう。



その様子から静かに目を逸らし、私はその場にぼうっと立っていた。蒼君が、店を出たのにも気づかずに。……そして、声を掛けられたことにも気がつかず。



「……あの」



蒼君、もしかして。相談に乗っているというのは、嘘で。あの女性と逢いたいから、私と逢うのを控えたいって言ったのかな……?



「ねぇ」



でも、蒼君が嘘をつくだなんて。ダメだ、どうして私は悪い方向に考えを持っていってしまうのだろう。蒼君も言っていたじゃないの、あの女性は会社の部下だって。



「ねぇ、ちょっと!!」



「……わっ!」



何回か私に声をかけていたようだが、気づかないでアレコレと考え込んでいた私。声をかけてきたのは……、先ほどまで蒼君と居た女性だった。




女性に声をかけられたことにより、蒼君がいつの間にか居なくなっていたことに今更気づく。



「え、と。私ですか……?」



「さっきから貴女に声かけてたんですけど」



どうやら、私に用のようだ。苛立っているのか、初対面にも関わらず口調がキツめだ。



「単刀直入に聞きますけど、貴女、秋塚さんの何なんです?」



「秋塚さ……、蒼君のことですか?」



私がこう口にすると、相手は驚きの表情を浮かべた。どうしてそこまでびっくりするのかわからなかったが、理由はすぐに判明した。



「秋塚さんのこと、蒼君って呼んでるのね」



馴れ馴れしいわ、と彼女は吐き捨てた。



「それで、秋塚さんの何なのアナタ」



「何なの、って……。最近お話させていただいてる仲で……」



私だって聞きたい。私は蒼君の何なのだろう。どういう関係なのだろう。私はただの知人?友達?それとも……。というかなんでこの人は、私と蒼君が知り合いだということを知っているの?



「どうして私にそのようなことを聞くんですか。あなた、蒼君の彼女さんですか?」



私はこう言い返した。彼女さんでは無い限り、とやかく言われる筋合いは無いはずだ。



すると彼女は、苦虫を噛み潰したような顔をした。残念ながら違う、とでも言っているように私は感じた。

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