蒼の歩み
……どうやら、お目当てのページが見つかった様で。本の中身が私に見やすいように、テーブルの上に置いてくれた。



ここだ、と指を指された文章を私は黙読した。



『――ふとした時に、誰かの忘れ物に触れただけで、はっと気づくことさえあります。ビビッと電気が走るような感じがしたり、身体が揺れたり、ざわざわと鳥肌が立ったり……。



忘れ物を手にした時ドキッとして、この気持ちはなんだろうと不思議に思っていると。案の定、相手から電話がかかってきて、取りに来たときに、お互い何か感じるものがあって、付き合うようになったケースもあります。



滞在意識を通り越して、魂の部分、光の部分が揺さぶられるほど、大切な出会いであることを、体が反応して教えてくれています』



「俺な、あの日。この店で引っ掛かるっつーか感じるものがずっとあってな」



それはもしかして真歩に反応してたのかな、と彼は呟く。




「……私、ソウルメイトとかはよくわからないけれど。とっても素敵だね、こういうの」



「……ま、俺もよくわかってはねーんだけどな。でも、真歩の話聞いてたら、これと似てて嬉しくなったっていうのかね」



「相手の所有物に触れたりした時に『あっ、知ってる。初めてではないな』……、と思うケースもあるみたいだね」



こういう、不思議な感覚や出来事って本当にあるんだな、と。本を読んで驚いた。と同時に、自分も似たような経験をしたという事実にもまた吃驚。



私は遅番は滅多に入ることはなかったが、もしかしたら蒼君に逢う為に、蒼君の忘れ物に触れる為にあの日は夜に仕事が入ったのか。そういう風に考えちゃっても、いいのかな。



「変な話、此処は真歩を知った大切な場所っつーのかね」



……もしかして。私を初めて知ったのが此処だから。彼はいつもこの場所を指定してきてるのかな?



「ホントに変な話だね。それが2年後にこうして再び逢って、会話をする仲になって」



「俺、真歩との出会いを大事にしたい」



「……どったの、急に」



出た。突然の蒼君の攻撃。



「急なんかじゃねーさ。いつも思ってはいるけれど、言葉にして伝えねーと意味無いと思って。だから口にしてみただけだ。ホント、有り難ぇよ」



いつも付き合ってくれてどーもな、と私の目を、顔を、見ながら彼は唇を動かした。





……なにそれ。



そんな、そんなの。



私だって、いつも思っているんだから。
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