蒼の歩み
「アイツ、近所に住んでんだ。なんか知らんけど懐かれちまったみてーだな」



そうなんだ、と。聞きながら私は思う。そういえば、蒼君の交友関係を全然知らない。私自身も、私の人間関係を蒼君に話したことはないけれど。今日たまたま逢った女性2人を見て、まだまだ彼について知らないことだらけだなぁと改めて思った。



何となく、蒼君の周りに人が集まるのは理解が出来た。……偶然今日見かけた蒼君の知人が女性だったというのが少しだけ引っ掛かるけれど。



「たまに会えば、話を聞いてやってる。そんな感じかね」



「ふーん……」



そこに座っていいぞと促されたので、私はソファに腰を降ろした。



「別に、無闇やたらと聞いてるわけじゃねーけどな」



「うん。……前に、蒼君言ってたもんね。人の過去とかそういうのは、もう無闇に聞くんじゃないよ、って。だから私、それ守ってるよ」



そう。人の過去――。蒼君の交友関係やら何やらが気になるにしろ、やたらと聞いてはダメなんだ。それなのに、あやかさんとの関係を聞いてしまったり、今までの私ときたら……。



守れて、ないじゃないか。守っているだなんて、嘘ばっかりだな。



「あー、そんなこと言った時もあったな。だが、無闇に聞くモンじゃねェとは言ったが、相手からすれば何かに悩んでたり落ち込んでいたら、誰かに話すだけでも気持ちが落ち着くって事あるよな。聞いてやりてェと思ったら『私でよければいつでも聞くからなー、聞くしかできねーだろうけど』みてェな感じで相手に言ってやるだけでも救われると思うんだ。聞いてくれる奴が居るってだけで嬉しいと思うんでね。と、1つ注意、無闇に聞いて引きずり込まれねェようにな」






「……聞いてくれるだけで嬉しいとはよく聞くけれど、本当にそうなのかなって。相槌しか打てず何も言葉をかけてあげれなくて、言葉を見繕って欲しいから話てるわけじゃないってのもわかってはいるけど、それってどうなんだろ……って最近考えてた」



「んー?」



「話す側にも聞く側にも回ったことあるけれど。蒼君自身は、聞いてくれるだけでも嬉しい?というか蒼君って、頼ったりする……?」



「聞いてくれる相手が居るってのはすげえ事だと思うんだ。言葉なんて要らねえんじゃねえかな。他人の苦しみは到底理解できるモンじゃねェ、想像してやる事しかできねェんだ。それは本人もわかってるだろう。心ん中のモンを吐き出すだけでも楽になる、その間だけでもテメーの声に耳を傾けてくれただけで苦しみが和らぐ。寄り添ってくれるだけで苦しみの中の孤独から解放される」



私の隣に腰を下ろしながら、彼は視線を斜め上に向けながらこう語ってきた。



「俺、頼る前に自分で消化しちまうからなァ。その辺鍛えられてきたんで。それでも、俺の変化に気付いて『聞くぐらいしかしてやれねェが』って言ってくれると嬉しい、心ん中にそんな奴が居るってだけで安心するよな」



「そうだね、自分の些細な変化に気づいてくれる人がいるっていうのは、嬉しい。……その鍛えられたっていうのは、果たしていいのか悪いのかわからないけれど」



鍛えられた……?きっと、私には想像もつかない苦労が彼にはあったのだろうか。
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