蒼の歩み
開いた画面の先には、彼からの暖かいメッセージ。


『大丈夫じゃねーくせに。話したくなったら言ってきな。いつでも聞いてやるから』



……どうしてこの人は。いつもいつもいつもいつも、私の心を見透かすの。何でわかるの。



我慢していた涙が、静かに一気に溢れ出して。それを拭うこともせず、私は返事を打つ。



『なんでわかるかな。うん、ホントは。大丈夫じゃないって打とうとして、消した。でも大丈夫じゃないなんて言っても反応に困るだろうし、話したくないわけじゃないけど、こんなのどう聞いてもらったらいいかわからないし、だから、それ故の大丈夫。ありがと』



この人に、嘘は通じない。良い嘘も、悪い嘘も。するとすぐに、彼からの返信。……きっと仕事中だろうに、悪いことしてるな私。



『そんな状態、平気な奴なんざ居ねーよ。1人も分かってくれる奴が居ねェってのは辛ェな。そんな所で仕事なんざまともにできなかったんじゃねェのか。よく耐えてたな。悔しいのは分かるが、いい機会なんじゃねェかと思う。世の中そんな奴等ばかりじゃねェよ。辛く苦しい経験は、人の痛み、深さ、感謝を教えてくれる。今まで見過ごしていた幸せをも気付かせてくれる。俺はそう思う。無駄なモンはねーんだよ。今は休めって事だと思って一休みしな』



……蒼君。





これが、この言葉が。他の人に言われたら、気休めや上辺だけの言葉としてしか受け取れなかったかもしれないけれど。



経験者って言う言い方もおかしいだろうが、そんな蒼君に言われたら素直に心に入ってきた。説得力があるのかな。



『うん、ありがとう。少し休ませてもらおうかな』



休むも何も、退職とかになったわけではないのだが。丁度、明日は休みだし、友人と出かける約束も控えてるし、気分転換でもしてこようか。



『仕事をしていれば、そこまでいかなくとも苦しい事や悔しい事は常に付き纏う。その壁を乗り越えるまではな。これからも色々あるぜ。ヘコタレてる場合じゃねーぞー。返信不要』



はーい、と画面に向かって小さく返事をしながら、携帯電話を閉じた。



ありがとう、蒼君。
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