ハートロッカー
「いなくても、帰ってくるのを待つんだろ?」

安部さんが笑いながら言った。

「じゃあ、行ってきます」

俺はカバンから財布を出そうとしたけど、
「ああ、いいよ。

ここは俺が奢るから」

安部さんに止められた。

「ありがとうございます」

お礼を言った俺に、
「Good luck!」

安部さんが発音よく、流暢に返してくれた。

喫茶店『柚葉』を出ると、日はすっかり暮れていた。

黒一色に染まった空に視線を向けた後、俺は『アウト・ブルース』に足を向かわせた。
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