ハートロッカー
俺の言うことを全部否定するとでも言うように、安部さんが言った。

「さっき一葉が三春の通帳を見たら、口座の金が全部なかった。

日づけを見たら昨日引出されてたって…」

携帯電話がつながらない。

口座にあるはずのお金が昨日全部引出されていた。

安部さんはズボンのポケットからタバコの箱を出すと、そこから1本取り出そうとした。

「禁煙」

一葉さんに言われ、安部さんは仕方ないと言うようにドアの方へと向かった。

鈴の音が鳴って、ドアが閉まる。

――三春さんが行方不明になった

その事実に、意識を失ってぶっ倒れなかったことが不思議だ。

今日ほど、自分の意識の丈夫さを恨んだことなんてないと思った。
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