ハートロッカー
「俺ばっかりって言う感じで、何かヤなんです」

続けてそう言った大政に、
「自分のことを知らなくてもいいって言ったのはあなたでしょ?」

あたしは返した。

「俺がいつそんなこと言ったんですか?」

「あたしからマンガを取りあげた時」

あたしがそう言い終えたのと同時に、それまで明るかったその場が暗くなった。

その代わり、目の前のスクリーンが明るくなった。


映画を見終わり、映画館を後にした。

2人一緒に肩を並んで歩くものの、あたしと大政の間に交わされる言葉はない。

1人分空いた、あたしと彼の距離を埋めようなんて思わなかった。

このまま言葉を発さないまま、家に帰ってもいいかと思った時だった。
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