スイートな御曹司と愛されルームシェア
 いつまでも見つめていたい気持ちを振り切って、咲良は背を向けた。そうしてパティスリーの紙袋を手に取り、部屋に戻る。

「私が辞めずにすんだお祝い」

 咲良はローテーブルの上でケーキボックスを開けた。中には咲良の好きなチョコレートムースが二個入っている。翔太は一緒に食べようと思っていたのだろう。スプーンですくって一口食べると、チョコレートのムースが舌の上でとろりと溶けた。いつもは甘く感じるそれが、今日はなぜか苦くてたまらない。

「嘘よ、好き。大好きよ……翔太くん……」

 咲良は両手で顔を覆った。いくら拭っても涙は後から後から頬を伝った。


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