スイートな御曹司と愛されルームシェア
第八章 決別しました
その二日後の日曜日。咲良は市内にある老舗高級ホテルのラウンジで、一人目立たないようにコーヒーを飲んでいた。ホテルの雰囲気に合うように、手持ちの服の中で一番高いスーツを着てきたが、そこを訪れる人たちは服装も立ち居振る舞いも洗練されていて、やはり咲良は場違いな気がした。
不安な気持ちで目だけを動かしてラウンジを見回した咲良は、もう一人、場違いな人間を見つけた。着古したとおぼしき黒い革のジャケットに、ところどころ穴の空いた色あせたジーパン姿の男だ。二十代後半くらいだろうか。長い黒髪の間から鋭い眼差しでホテルの中庭を睨んでいる。横のソファに黒のケース――おそらくエレキギターが入っているのだろう――が立てかけられているのを見て、咲良は口元を緩めた。
(あのジャケットもジーパンも、お金がないからじゃないんだわ。きっと彼はミュージシャンか何かなのね)
ロックに詳しくないので彼のことは知らないが、売れっ子だとしたらここにいても咲良ほど場違いではないだろう。咲良は小さく肩をすくめて、男の視線の先を見た。そこには小さな噴水を囲うように木々や植物が配された緑豊かなパティオがあり、散策している人たちが数人見える。その中に、黒のキリッとしたスーツ姿の翔太を見つけ、咲良の心臓が小さく音を立てた。
(翔太くん……)
不安な気持ちで目だけを動かしてラウンジを見回した咲良は、もう一人、場違いな人間を見つけた。着古したとおぼしき黒い革のジャケットに、ところどころ穴の空いた色あせたジーパン姿の男だ。二十代後半くらいだろうか。長い黒髪の間から鋭い眼差しでホテルの中庭を睨んでいる。横のソファに黒のケース――おそらくエレキギターが入っているのだろう――が立てかけられているのを見て、咲良は口元を緩めた。
(あのジャケットもジーパンも、お金がないからじゃないんだわ。きっと彼はミュージシャンか何かなのね)
ロックに詳しくないので彼のことは知らないが、売れっ子だとしたらここにいても咲良ほど場違いではないだろう。咲良は小さく肩をすくめて、男の視線の先を見た。そこには小さな噴水を囲うように木々や植物が配された緑豊かなパティオがあり、散策している人たちが数人見える。その中に、黒のキリッとしたスーツ姿の翔太を見つけ、咲良の心臓が小さく音を立てた。
(翔太くん……)