スイートな御曹司と愛されルームシェア
「先生方にご迷惑をおかけすることになって申し訳ないのですが、私も恭平さんのことをとても大切に思っているんです」
果穂のまっすぐな視線に、悔しいかな、咲良はたじろいでしまった。何も言えず、ただ胸が痛くて、息が詰まりそうで、目に熱いものがにじんでくる。
迷惑なんて思わないよ、とか、おめでとう、とか言うべきなのだろう。でも、たとえ嘘でもそんな言葉は言えなかった。言おうものなら、一緒に涙もあふれてしまいそうだったから。
「そ、うだよね……」
咲良は瞳が潤んだのをごまかすように、べっ甲のメガネフレームに手を添え、瞬きを繰り返した。
恭平のことは何でも知っているつもりだった。クールに見えて意外と猫舌で、コーヒーはしつこいくらい息を吹きかけて冷まさないと飲めない、とか、右肩上がりの癖のある字を書くから、恭平の字はすぐわかる、とか。
(私だけが彼を知っている、私だけが彼のことを理解していると思っていたのに)
実は何もわかっていなかったんだ、見えていなかったんだ、と知って、ショックだった。そんな彼女に追い打ちを掛けるように恭平が言う。
「咲良さん、ほかの講師には僕からまた改めて報告するから、この話はしばらく黙っててくれるかな」
ということは、咲良は失恋のショックを誰にも愚痴れないということだ。
(まあ、講師仲間とは恋バナをするような関係じゃないから、愚痴を言う相手はいないけど)
創智学院の共同出資経営者である咲良は、ほかの正社員の講師やアルバイトの大学生講師をまとめる立場にあるため、プライベートな話をしたことはない。
「わかった。私からは何も言わないから」
講師同士の恋愛を禁止しているわけではないが、塾は勉強に専念するための場所。浮かれた雰囲気を出したくないというのは、恭平なら考えそうなことだ。
果穂のまっすぐな視線に、悔しいかな、咲良はたじろいでしまった。何も言えず、ただ胸が痛くて、息が詰まりそうで、目に熱いものがにじんでくる。
迷惑なんて思わないよ、とか、おめでとう、とか言うべきなのだろう。でも、たとえ嘘でもそんな言葉は言えなかった。言おうものなら、一緒に涙もあふれてしまいそうだったから。
「そ、うだよね……」
咲良は瞳が潤んだのをごまかすように、べっ甲のメガネフレームに手を添え、瞬きを繰り返した。
恭平のことは何でも知っているつもりだった。クールに見えて意外と猫舌で、コーヒーはしつこいくらい息を吹きかけて冷まさないと飲めない、とか、右肩上がりの癖のある字を書くから、恭平の字はすぐわかる、とか。
(私だけが彼を知っている、私だけが彼のことを理解していると思っていたのに)
実は何もわかっていなかったんだ、見えていなかったんだ、と知って、ショックだった。そんな彼女に追い打ちを掛けるように恭平が言う。
「咲良さん、ほかの講師には僕からまた改めて報告するから、この話はしばらく黙っててくれるかな」
ということは、咲良は失恋のショックを誰にも愚痴れないということだ。
(まあ、講師仲間とは恋バナをするような関係じゃないから、愚痴を言う相手はいないけど)
創智学院の共同出資経営者である咲良は、ほかの正社員の講師やアルバイトの大学生講師をまとめる立場にあるため、プライベートな話をしたことはない。
「わかった。私からは何も言わないから」
講師同士の恋愛を禁止しているわけではないが、塾は勉強に専念するための場所。浮かれた雰囲気を出したくないというのは、恭平なら考えそうなことだ。