スイートな御曹司と愛されルームシェア
 咲良は大きく息を吸ってからゆっくりと吐き出した。涙の堤防はしばらく持ちこたえそうだ。

「話は終わりよね。じゃあ、後は二人でゆっくり食事でもして」

 咲良は財布から千円札を数枚抜き出してテーブルに置き、バッグを持って立ち上がった。恭平が驚いたように言う。

「でも、たくさん注文したんだから、咲良さんも一緒に食べようよ」
「幸せな二人の邪魔をするなんて、野暮なことをさせないでよね」

 冗談っぽく言ってから、咲良は果穂に視線を向けた。

「朝倉さん、体をいたわってね。私も講義がないときは受け付けを手伝うようにするから」
「ありがとうございます」

 果穂の嬉しそうな声を背中で聞きながら、咲良は居酒屋の店舗を出た。左側のエレベーター横にあるこのレストランビルのフロアマップを見る。

「五階のバーで飲んで帰ろう」

 お一人様がなんだっていうのよ、どうせ私は独り身よ。そうつぶやくと、エレベーターの上ボタンを押した。

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