スイートな御曹司と愛されルームシェア
そのときの手触りの良さが蘇ってきた。あのふわふわの栗毛を確かに撫でたのに、ラッキーはどこへ行ってしまったんだろう。
咲良は立ち上がってベッドに近づいた。実家で飼っていたときは、よく咲良のベッドの下で寝ていたものだ。垂れ下がっている毛布をめくって覗き込んだが、そこにはミドルブラウンのフローリングが広がっているだけで、ラッキーの姿は影も形もない。
「あれぇ、おかしいな。確かに連れて帰ってきたのに」
ベランダへと通じる窓をカラリと開けたが、そこにもいない。
「ラッキー、どこ?」
窓を閉めて部屋の中に呼びかけたとき、キッチンから返事があった。
「何ですか?」
ドアからさっきの男の顔が覗き、咲良はギョッとする。
「なんであなたが返事をするのよ」
「え、思い出したんじゃないんですか?」
彼の言葉に、咲良は額に手を当てて考え込む。
(私が連れ帰ったのは栗色のふわふわした毛並みの犬だったはず……)
指の下からチラリと覗くと、目が合った彼がにっこり笑った。