スイートな御曹司と愛されルームシェア
 だが、ホッとする間もなく、また着信音が鳴り始めた。液晶画面を見ると、今回も相手は母だ。

「もー、しつこい」

 ため息をつく咲良に、翔太がおかしそうに笑いながら言う。

「出るまでかけてきそうですね」
「そうなのよ、ホントにもう」
「出た方がいいんじゃないですか?」
「ラッキーは出たら何を言われるからわかってないから、そんなことが言えるのよ」
「何を言われるんですか?」

 説明するのが面倒で、咲良は黙って首を振った。母が諦めて電話を切ってくれるのを待っているが、なかなかどうしてしつこい母である。

 咲良はチラリと隣を見上げた。目が合った翔太が、不思議そうに首を傾げる。さらりと額にかかる栗色の茶髪、ぱっちりした目、形のいい鼻、甘い口元。並のアイドル顔負けのいい男である。

「んー、少年野球チームのコーチとかならありかな? 出会ったのはバッティングセンターで……ジュニアトーナメント大会で優勝するまで結婚は考えられなくて……」

 そこまでつぶやいて咲良は首を振った。母にお見合いを思いとどまらせるには、本当に付き合っているかどうかは別にして、やはり現実的に結婚が考えられる相手でなければ。

「咲良さん、やっぱり出た方が」

 翔太に言われて、咲良は仕方なく通話ボタンにタッチした。
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