スイートな御曹司と愛されルームシェア
『あんたはいつもそればっかり。いつ電話しても〝仕事が忙しいから〟って言うでしょ。先月、貴裕(たかひろ)さんがうちに来るからあなたも来なさいって言ったときだって、来なかったじゃないのっ』

 貴裕というのは、咲良の四歳年下の妹、百々花(ももか)の彼氏で、二人は結婚を前提に付き合っているそうだ。

「だって、あの日は大学受験直前講座があったんだもの」
『またそんなこと言って』
「本当だってば」

 仕事があったのは事実だ。希望者対象の補習授業なので、別の日や別の時間帯でもよかった。でも、百々花と貴裕との食事会はこれまでにも数回行っている。そのたびに「お姉ちゃん、彼氏は? 結婚するの、しないの? お姉ちゃんが独り身だと、私、結婚しにくいんだけど」と妹に言われるのだから、いいかげん会いたくなくなるこっちの気持ちもわかってほしい。

(なんて、わかるわけないか。順番なんか気にしないで、結婚したいならさっさとすればいいのに)

 思わず深いため息をついた咲良は、母の言葉を聞き逃してしまった。「え?」と問い返すと、母の有無を言わさぬ声が返ってくる。

『だから、今日は仕事が休みなんだから、そのお付き合いしている人をうちに連れて来なさいって言ったの! 百々花だって長女の咲良を差し置いて結婚できないって気にしてるみたいだし、恋人がいるってわかったら、二人とも安心して結婚話を進めていけるはずだから』
「そんな急に……いくらなんでも今日なんて……彼にだって都合があるし」
『またそんなこと言って。本当にお付き合いしてるんなら、一度うちに連れてくるのが筋ってもんでしょ!』
「それはそうだけど……」

 何も考えずについてしまった嘘をどう繕おうか迷っているうちに、母が言う。
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