スイートな御曹司と愛されルームシェア
「ちょっとぉ、何勝手なことをしてるのよ」
「あれ、迷惑でした? 俺としては困っている咲良さんに恩返しをするつもりだったんですけど」
「あなたが余計なことを言ったから、逆に困った事態になったのよ」
「どうしてですか? 立派に恋人役を務めてみせますよ。そうすれば、咲良さんはお母さんの干渉から逃れられるんでしょう?」

 笑顔の翔太に、咲良はそっけなく言う。

「それはそうだけど、無職はお呼びじゃないの」
「今の今は無職ですけど、昨日までは会社員だったんですよ」
「はぁ?」

 咲良に疑いの眼差しを向けられ、翔太がズボンの後ろポケットからシルバーの名刺入れを取り出した。

「わたくし、株式会社TDホールディングスの楢木翔太と申します」

 彼が恭しく差し出した名刺には、経営企画部長と印字されている。

「経営企画部長? これ誰の名刺? あなたのお父さんの?」
「違いますよ、ちゃんと俺の名刺です。今は辞めましたけど……」

 口ごもる翔太を、咲良は眉を寄せて見上げた。

「部長って地位の何が気に入らなかったの?」
「じゃあ咲良さんは大手予備校の常勤講師って地位の何が気に入らなかったんです?」

 ぱっちりした二重の目で見返され、咲良は頬を膨らませる。

「生意気」
「生意気って……」

 翔太が苦笑する。

「ラッキーはいつだって私に忠実だったのよ。口答えも反抗もしたことなかったのに」
「今はラッキーじゃありません。咲良さんの恋人の楢木翔太です」
「恋人じゃなくて、恋人役」
「役じゃダメですよ、バレちゃいます。本物らしくしましょう」
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