スイートな御曹司と愛されルームシェア
 そう言って、翔太が咲良の肩に手を回した。とっさのことに抵抗する間もなく抱き寄せられ、彼の力強さにドキンとする。身長百六十二センチの咲良をすっぽり包み込んでしまった翔太は、咲良より頭一つ分背が高くて肩幅も広い。咲良の頬に寄せられた彼の髪からは、清潔な石けんの香りがほんのりとした。その爽やかな匂いは、子どもの頃にラッキーと一緒にシャワーを浴びたときのことを思い出させる。ラッキーに寄り添って昼寝をしていた懐かしい記憶が蘇り、咲良は目をつぶって翔太の胸に頬をすり寄せた。

「咲良さん……?」

 突然耳元で翔太の声がして、熱い息に首筋をくすぐられ、身震いしそうになった。鼓動が速まり、体温が上がったのをごまかそうと、咲良はあわてて言う。

「もう、びっくりするじゃない。耳元で急に話しかけないでよ」
「すみません」

 咲良は胸のドキドキをなだめようと、ふうっと大きく息を吐き出し、背筋を伸ばした。

「でも、いい匂いだった。ラッキーが生き返ったのかと思ったくらい」
「はい?」
「ラッキーと同じシャンプーの匂いがしたの」
「え、じゃあ、あのテニスクラブのシャワールームにあるのは、犬のシャンプーってことですか?」
「そんなわけないでしょ」

 咲良は呆れ顔で翔太の腕の中から抜け出した。

「わかってますよ」

 振り返って見上げた彼は、いたずらっぽい笑みを浮かべている。それがたまに見せる余裕のある笑みと同じで、なんとなくおもしろくない。咲良が頬を膨らませると、翔太がもう一度咲良の肩に手を回した。
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