スイートな御曹司と愛されルームシェア
「いやあねぇ、そんなことないわよ。この子ったら予備校で働き続ければいいものを、同僚にそそのかされて非上場株式会社とかいうのを作っちゃったものだから、心配してたのよねぇ。でも、楢木さんが株に詳しそうな方で安心したわ。咲良が損をしないようにアドバイスしてやってね」
「咲良さんはしっかりしてらっしゃいますよ。逆に僕の方がいつも助けられています」

 翔太に笑顔で言われ、母は「あら、やだ。咲良は本当にお節介で」などと笑いながら右手を大きく振った。翔太のことをすっかり気に入ってしまったらしい母が、掛け時計を見て笑顔で言う。

「あら、もうこんな時間。翔太さんも夕飯を食べていってくれるわよね?」

 ボロが出ないようにできるだけ早く退散しようと考えていた咲良は、あわてて腰を浮かせた。

「あ、せっかくだけど、翔太くんは明日早いから」
「えーっ、でも貴裕さんだって一緒に食べるのよ」

 母の不満そうな口調を聞き、翔太が咲良の腕にそっと触れた。

「僕なら大丈夫ですよ、咲良さん」

 ヘマをしないように気をつけますから、というように小さく目配せされたが、咲良はやはり不安で翔太を見つめ返した。そんな咲良に気づくことなく、母が言う。

「翔太さん、今日は車?」
「いいえ」
「じゃあ、ビール飲むわよね?」
「あ、はい。いただきます」
「それじゃ、咲良も手伝って」

 母に言われて、咲良は小さくため息をついた。自分は飲まずに翔太を見張っておかなければ。

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