今宵、桜の木の下で

「……え? あの、……」

『だって、そうでしょ?』

「えーっと。見えてるって……見えてるよ? それがどうかしたの??」

『まじで』


やっと子どもらしい甲高い声を上げて

『うわあ、よかったあ』

なんて、嬉しそうに笑うから。


やっぱりママとはぐれちゃったんだ。


ここで一人、怖い思いをしてたんじゃないのかなって

「今頃きっとママが心配してるね」

そのふわふわした頭を撫でてあげようと手を伸ばした。


それなのに

『ママ……』

急に勢いよく立ち上がるから、私の手のひらは空を舞う。


「あ、お家、どこかわかるかな??」

『うーん、わかんない』

「そっかあ……。じゃあ、ママがいるところにまでお姉ちゃんが一緒に行ってあげるからね」

『ほんとに?? じゃあずっといっしょだねえ』


ずっと、―――??


訳が分からず戸惑っていると、男の子はピクンと身体を震わせた。


『だれか、きた』

「え、誰、―――??」


男の子の肩越しに、向こうから走ってくる人が見える。


「あ」


あれって、――――――。

全身ずぶ濡れになりながら、山門を抜け拝殿まで一気に駆けてきた、彼。


「うわあああっ!!」


勢い良く飛び込んできてかと思うと、頭を左右に降りながら水しぶきを派手に飛ばす。


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