今宵、桜の木の下で

「はあ、も、最悪っ」


濡れて重たくなった髪の毛からは滴がぽたぽた垂れ落ちる。


「この雨、まじ、やばくない?」

「えっ、ああ……うん」

「傘、ぜんっぜん、役に立たねえよな」


肩で息をしながら、髪に含んだ水分を振り飛ばすその仕草に

「……っ」

私は一瞬、言葉に詰まってしまった。


だって、――――。

まさかの、藤木くん……。


おでこを全開にした藤木くんなんて、見たことないし。

ていうか、こんなに近くで見たことないし。

いやいや、それよりまず話したことないし!!


「入江、ずっとここにいたの?」

「えっ」


私の名前、知ってるんだ。そのことにもまたびっくりで。

だって、―― 接点なんて今までなかったもん。


「4組の入江だろ?」

「あ、うん」


この状況、正直どうしたらいいのか、――


「きゅ、急に……」


焦って発した声が裏返ってしまって


「降ってきちゃった……よね……」


見上げた視線の先に藤木くんの瞳が重なった。


「ふっ、藤木くん。傘、持ってたのにびしょびしょだね」

「入江は? 傘、忘れたの?」

「あ、うん……」

「まあ傘があってもこれじゃあな」 


全身びしょ濡れの自分を見下ろして、藤木くんは困ったように目尻を下げた。

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