今宵、桜の木の下で
どうしよう、―――。
ハンカチくらい出すべきだよね。でもさっき私も使っちゃったし濡れてるからなあ。
こんな時、タオルとかあればいいのに……。
――――――!!
あ、あるっ。 私、タオル、持ってる!!
スクールバッグの中から取り出したのは、部活で使うものを纏めた巾着袋。
「……あの、これ、―――」
少し大きめのハンドタオル。これならハンカチよりもましかなって、藤木くんに差し出した。
「え、いいの?」
「うん、使って」
「サンキュ。助かるよ」
斜めに掛けていたスクールバッグを拝殿の板間に置くと、藤木くんは制服のシャツの上から濡れた身体を拭き始める。
細いのにしっかりと筋肉がついた腕がしなやかに動くのを、私は興味深く見ていた。
「入江、さ、――」
「はいっ??」
こっそり見ていたことを咎められるのかと
「あ、ごめん……」
内心びくびくしながら視線を逸らした私に、タオルで髪を拭いていた藤木くんの手が止まる。
「……もしかして、泣いてた??」
「え?」
「目、真っ赤じゃん」
―――――!!