今宵、桜の木の下で
「美琴ちゃんは少しも可哀そうじゃないわ。だって、素敵なグランパと優しいパパがいるじゃない。
それにママはいつも美琴ちゃんの近くで見守ってるはずだもの」
いつも側にいて手を握ってくれた、看護師の優しいお姉さん。
「焦らないでいいの。声なんていつか出るんだから」
― ほんとに?
「本当よ。声なんて出なくたって美琴ちゃんの言いたいこと、私わかるわよ」
― ほんとうに、わかるの?
「うん、―― そうね……。
そろそろグランパがくる時間だ。お昼ご飯、何かなあ、違う??」
― あたりっ!!
「ね、当たったでしょう」
あの頃、―― 佳奈子さんは私の心の支えだった。その記憶はずっとずっと胸の中で生きていた。
それなのに、―――。
去年、佳奈子さんは新しいお母さんとなって私の前に現れた。
「覚えてるだろ、美琴。今日から佳奈子さんが美琴のママだよ」
そんな再会、ちっとも望んでなかった。
それが、いきなりママ??
ママを忘れてしまったかのように幸せそうに笑うパパを見ていると、心が痛くて苦しくなる。
だからどうしても、素直になれない。
だって、――。
パパにとっては奥さんかもしれないけど、私にとってはママじゃないんだもん。
捻くれていることくらい重々承知の上。
「じゃあ、学校には連絡しておくから」
「今日はゆっくりしろよ、な??」