今宵、桜の木の下で
放課後、―――。
これ……、いつ、返そう。
藤木くんのクラスに行くのも気が引けるしなあ、なんて。
うだうだしながら一日を過ごし、結局はこんな時間になってしまった。
「おう、さんきゅ」
勇気を出して武道場まで行くと、ちょうど藤木くんが出てきた所に出くわした。
「良かった……今日中に渡せて」
つい、ホッとして大きく肩で息を吐く。
「いつでも良かったのに」
……そんなふうに言われちゃうとな。
一日中悩んでた私が、ちょっと馬鹿みたいに思えた。
「……じゃあ、ありがとう。部活頑張ってね」
さっさと私も部活に行こう。
踵を返して出て行こうとする私に、
「入江、ちょっと待って」
背中越しに聞こえた、藤木くんの声。
「えっ?」
振り返った私の目に映るのは、ちょっと不貞腐れたような藤木くんの顔。
あれ、何か怒らせたのかなって、私はそのまま固まった。
「美術部、いつ終わんの?」
――――??
「何時頃終わんの、って聞いてんの」
「えっと……18時くらい??」
「18時半頃までいる??」
「帰るのはそれぞれ自由だから……」
「じゃあ、18時半頃、迎えに行くよ」
―― 今、何て……?
「迎えっ??」
「そう、迎えに行くから美術室で待ってて」
状況を飲み込めない私を置いたまま、藤木くんは武道場の中にさっさと戻って行ってしまう。