今宵、桜の木の下で
え、――?
え、―――?
迎えに行くっていったよね??
武道場の入り口に一人残されたまま、私はしばらく動けないでいる。
「迎えって……」
迎えに行くって……迎えに来るってこと??
美術室まで、―――??
………ひゃああっ。
指先からじんじんと痺れてきて、どんどん身体が熱くなってくる。
「……嘘でしょ」
と、とにかく、ここから離れよう。
立ち去ろうと振り返った瞬間、前から来た人とぶつかってしまった。
「ご、ごめんなさいっ」
慌てて頭を下げ顔も見ずに謝ると、急いで階段を駆け上がった。
教室だ、―― そうだ、教室に戻ろうっ。
「……っ」
教室のドアを開けると、もう誰も残っていない。
―――――。
イスに座り机を抱え込む。机に頬を寄せると冷たくて気持ちがいい。
お迎え、かあ、――。
何だか今日は、一日中藤木くんのことを思って過ごしてるな……。
……ん??
もしかして、一緒に帰ろうってことなのかな。
いやいや、そんなことはないよね?
何か、用事……とか?
うん、それだ ―― そうだよ、用事があるんだよ。
のろのろと立ち上がりロッカーから荷物を取り出して。
そろそろ、部活、行かなきゃね……。
何、期待してるんだろ……。
溜め息を吐きながら教室の窓からグラウンドを見下ろした。
そこには、黙々と走り続ける藤木くんの姿があった。