今宵、桜の木の下で
こんな浮ついた気持ちで大丈夫かな、気が散って集中力なんてないかも……。
なんて思っていたのに、――。
自分でも驚いてしまうくらい冷静に、一心不乱に課題をこなした。
やる時はやるんだよね、私。
そんなふうに余裕さえ感じられて、ここ最近の中では満足のいく仕上がりとなった。
17時半を過ぎると、ぽつぽつとみんな後片付けをし始める。
「美琴、まだやってくの?」
「うん。もうちょっと」
……今日は18時半まで残るから、ね。
「ねえ、まだ残るの?」
いつも一緒に帰る瑛理奈が筆を洗い始めた。これはもうほどなくして帰ろうかな、という意思表示。
これは暗黙の了解で、私たちはお互い洗い物を始めると、そろそろ終わろうという合図にしている。
「もうちょっと、やってく」
「じゃあ今日は先に帰るね」
「うん」
18時を過ぎると美術室に残るのは、私一人だけになってしまった。
……そろそろ片付けようかな。
そう思い立ち上がった瞬間。
コンコンコン、―――。
タイミング良くガラスを叩く音が教室に響き渡る。
「あ、――」
藤木くん…… 本当に、来たんだ。
「終わりそう?」
「あ。うんっ」
返事を聞くよりも先にどんどんと教室に入ってくる。
そして私の描いたデッサンの前に立つと、それをじーっと覗き込んだ。
「入江が描いたの、これ?」
「うん」
「他には?」
藤木くんは興味津々といった表情で辺りを見渡した。