今宵、桜の木の下で
「…藤木くん……??」
えっと、―― 今、帰り?とかでいいのかな。
何か喋んなきゃって思うけれど、不意打ち過ぎて唇が渇いて舌が上手く動かない。
「入江、メール見た?」
「え?」
「さっき送ったんだけど」
メール、――??
「いや、あの……」
慌ててスクールバッグの中に手を入れ携帯を探した。
「あ」
申し訳なさそうに受信を知らせるランプに、思わず目を見張る。
「何だよ今気付いたのかよ。
返事こないしさ、―― まじで嫌われたのかと思った」
―――――!!
『今日も一緒に帰れる?』
そんな短い文面ではあるけれど、ドキドキと私の心臓を逸らせるのには十分な破壊力。
「あ、あのっ、……いいの?」
「いいのって、俺が誘ってるんですけど」
「あ、そっか……」
瑛理奈、―― 祈り、効いたよ……。
「もう遅いし送っていくよ」
「ありがとう……」
藤木くんに見られながら靴を履くって、――。
この中途半端な中腰の姿勢がたまらなく恥ずかしくて、もう口から心臓が飛び出そうになるくらい緊張した。
それでもどうにか顔を上げて……私たちは一緒に並んで校門を出た。
「藤木くん、剣道部終わるの早いね」
「今日は顧問が研修か何かで休みだったんだよ。だから早く終われたの」
「そうなんだ」
―――――。
あーん。
会話が、続かない……。
「あの……」
とにかく、会話。
何か、話しかけなきゃ、――――。
でも、何を??