今宵、桜の木の下で


「入江、――」


―――――!!


「はいっ」

「別に無理して話そうとしなくてもいいよ」


それはクラっとくるくらい、優しげな表情で。


「別に俺、沈黙は苦手じゃないから」


私は藤木くんから視線を逸らせなくなってしまった。


「ほ、ほんと?」

「うん。入江とは別に喋らなくてもいいかなって思う」


え、―――。

あの、それって、―― どういう意味なのかな。


「喋らなくても……いい??」

「うん、いいよ」


ちらりと横目で一瞥すると

「何て説明したらいいのかわかんなけど、嫌じゃないからそこは誤解しないで」

藤木くんは私の歩幅に合わせゆっくりと歩いていく。


あまり意味がわからなくて、かといってヘラヘラ笑うわけにもいかなくて、私たちはずっと無言のまま家までの道を歩いていた。



『今日は、送ってくれてありがとう』


悩んだあげく、これだけ。

あっさりしてるかなあって、自分でも思うんだけど。これ以上、どんなメールにしたらいいのかわからない。


―――――。


やっぱり、これ以上は書けないや。

多分、―― 書いたら書いただけ自滅しそな文になりそうで。

初めてのメールだしこんなもんだよね。

うん、きっとこんなもんだよ。


よし、送信しよ。

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