今宵、桜の木の下で
そして18時半、―― 私は玄関へと向う。
藤木くん、まだみたい……ちょっと早かったかな。
上履きを脱いで靴箱に戻し、グラウンドが臨める窓から空を見上げては溜め息を吐く。
夕暮れの空には金星がきらりと輝いて、野球部の男の子たちがグラウンドの整備を始めていた。
15分ほど待った頃、階段を二段飛ばしに上ってくる藤木くんの姿を見つけた。
「入江、―――」
額には光る汗が見えて、走って来てくれたんだと思うと自然に頬が緩んでしまう。
「ごめん、待った?」
「えっ、……うううん、全然っ」
少し照れくさそうな笑みを浮かべた藤木くんは
「……嘘つきだなあ」
私の頭に触れようとして、その手をまた引っ込める。
「あ、あの……っ」
「遅くなってごめんな」
構えて固まってしまった私に、気を遣ってくれたのかもしれない。
「もう帰ったかと思って焦った」
「そんな……」
藤木くんは私を見つめたまま、ゆっくりと口角を上げた。
「入江の姿が見えたらホッとしたよ」
「……っ」
その笑顔 ……反則なんですけど。
ドキドキと、緊張感はマックスなのに、目が逸らせないでいる。
「帰ろうか」
何だかめちゃくちゃ恥ずかしくって、声に出して返事をすることはできなかったけれど……。
「……」
ちゃんと目を見ながら、頷いた。
それだけでも、進歩、―― だよね。