今宵、桜の木の下で
「八幡さんだしなあ、子供の幽霊くらいいるかもな」
―――――!!
その何気ないひと言に、ドキリと心臓が大きく跳ねて私は思わず足を止めた。
「……やっぱり幽霊っていると思う??」
「え、―― 本気にしたの??」
振り返った藤木くんが想像以上に驚いたような顔を見せたから
「そんなわけ、ないよね」
私は慌てて誤魔化しながら藤木くんの隣に立ち並ぶ。
やば……。
こんな話、誰も信じるわけないのに―――。
「入江??」
「んっ??」
「それさ、絶対、幽霊見たんだよ」
「……っ」
大きく目を見開いた私に、藤木くんは声を上げて笑い出した。
「冗談だよ。まじでビビり過ぎだって」
いやいや、本当に冗談ならいいんだけど……ね。
笑うに笑えない私を見て、本当に怖がってると思ったのかな。
「ほら」
目の前に差し出されたのは、藤木くんの手のひら。
「えっ」
これは……手を繋ぐってこと―――??
「帰ろ」
躊躇う私の手を取ると、あっさりと前を向く。だけど耳が少し赤いような気がして後ろからまじまじと見入ってしまった。
藤木くんも……緊張してるの??
ぐいぐいと引っ張られるように歩き出したけれど、何も喋らない私に不安になったのか
「……っ」
藤木くんの足は急に止まった。
「入江、―――」
背を向けたまま名前を呼ばれ、私は冷や冷やしながら藤木くんを見上げた。