今宵、桜の木の下で

こんな経験、初めてで、―――。


ふるふると唇が震えるこの空気。


駄目だ……もう、息が苦しい。


「あ、あの、……も、帰って……いいよね??」


そんな私の小さな願いも叶わずに

「駄目」

藤木くんはいつもするみたいに私の頭に手のひらを乗せる。


ぽんぽんぽんと優しく触れられるたびに、頬に集中した血液が発火しそうな勢いで熱をもつ。


「いや、あのっ……私もうっ、結構いっぱいいっぱいで……。

あっ、明日、……明日??

そうだっ、明日また話そ……」


早口で喋り出した私を見守るように頷きながら

「駄目」

直ぐに却下した自分に、少し吹き出して。


「入江、―――」

「はいっ」

「落ち着いて、聞いてくれる??」

「……う、うんっ」


細くて長いその指が、私の髪を梳いていく。


「すぐに赤くなるところも、固まってしまうところも……」

「……っ」


その手は下に下りてきて、私の両肩に添えられた。


「好きだよ、全部」


――――――!!


「……大切にするから」


遠慮がちに回された腕が、私をふわりと抱き寄せた。


「大切にする」


頬に感じた、締った胸の筋肉。



藤木くんの匂いに包まれて、私は瞬きも出来ずただただ息を殺していた。

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