今宵、桜の木の下で


「今日も一緒に帰るわけ??」


放課後、―― 美術室に向う途中。

瑛理奈は拗ねたように私を見返した。


「うん」

「ラーブラブだね、こりゃ」

「そ、そいいうわけじゃ……」

「しょうがないなあ、美琴は藤木に取られちゃったし。私も恋、探しますか」

「そんなこと言って。瑛理りん、もてるくせに」


私なんかと違って男子とも普通に会話が出来る瑛理奈は、モデルさんのようにスタイルも良くって、その上美人。

告白だってしょっちゅうされているのに、瑛理奈はそれをことごとく断っている。

好きな人がいるのかな、なんて思っていたけれど、ある日お兄さんの友達が好きなんだって、教えてくれた。


叶わない恋。

もう、彼女がいる人だから、って。


きっと今でも、その人のことを思ってるんだよね?

時々見せる切ない表情は、何だか悲しげで。

私にはわからない、大人の顔をしている。


「今度、美琴んち、泊まりに行っていい??」

「いいよ」

「いつにしよっか」


私は恋に恋をしているだけなのかもしれない。

一緒にいると緊張してばっかりだけど、藤木くんはいつも優しい。

話をするだけで、――

声を聞いているだけでやっぱり嬉しいと思ってしまうし、部活中に藤木くんの姿をグラウンドに見つけただけで、心がドキドキ逸ってしまう。


「一晩中、美琴ののろけ話でも聞きますか」

「んもうっ、―― 瑛理りんてばっ」


こんな日常を、幸せだと思っていた。

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