今宵、桜の木の下で
18時を過ぎた頃。
今日も玄関で待ち合わせて、藤木くんと一緒に帰る予定。
そろそろ、片付けようかな。
誰もいなくなった美術室は、私が筆を洗う水音だけが響いてる。
「……っ」
不意に立ちくらみに襲われて、私は体勢を崩してしまった。ガタンという派手な音を立て、身体を支えていた椅子までも倒れてしまう。
「……いっ、たあっ……」
しゃがみ込みながら息を整えて、目眩が治まるのを待つ。
うわあ、久し振りにきたかも、――。
最近寝不足だったからなあ……。
よく朝礼や式典などで倒れる子ども、―― それが私だった。
元々とそう身体が強い方ではない。
小学生の頃からどうも集団になると緊張してしまうのか、貧血を起こしたり気を失ってしまったりして、そのまま保健室に運ばれたことが何度もある。
病院で受けた検査によると、どうやら標準よりも赤血球の数値が低いらしい。
普段の生活に何か支障があるほどでもなく、薬も飲まずにすっかり放置してしまっていた。
少し横になれれば落ち着くんだけど……。
藤木くん、―― 待ってるよね……。
動悸が治まるのを待って、私はゆっくりと立ち上がった。
…大丈夫、かも。
良かった……少しフラフラするけど、歩ける、みたい。
職員室に鍵を戻し、のろのろとした足取りで中央玄関に着くと藤木くんは既にもうそこにいた。
「美琴、――??」
異変に気付いたらしく大股でこっちに歩み寄ってくれる。