今宵、桜の木の下で
「どうした?」
「……ちょっと貧血……でも、大丈夫だから」
「大丈夫って、顔、真っ白じゃん」
「……ゆっくり歩いてもいいかな??」
「無理すんなって」
藤木くんがいてくれて良かった。
心配そうに覗く眼差しに、私はホッとして泣きそうになってしまう。
「……ごめんね、腕、ちょっとだけ掴まらせてもらってもいい?」
「ほら、――――」
腕を伸ばそうとする私の手首を掴むと、藤木くんはゆっくりと自身へと引き寄せる。
「美琴が掴まってるより、俺が支えてる方が楽だろ??」
「……ありがとう」
ぐっと支えられた腕に藤木くんの体温を感じると、冷えた身体に少しずつ血流が廻ってきたように思えた。目眩もだいぶましになったような気がする。
だけど、―――。
「……ふう」
これは貧血の動悸なのかな。
藤木くんと一緒にいるから、ドキドキしているのかな。
ぼんやりした頭で治まらない動悸について考えていたら、視線の先でふわりと揺れる何かに気がついた。
「えっ」
……これって、―――。
桜、だ。
美術室で見た、あの、――――。
『みことーっ』
――――!!!
今の、声っ。
「あれっ?」
立ち止まって、辺りを見渡した。
「どした?」
「あ、あの…今、誰かに名前を呼ばれたような気がして……」
振り返ってみても廊下の向こう、ずっと奥まで人影なんて誰も見当たらない。
「誰もいない……みたいだけど??」
藤木くんも私の視線の方向に目を向ける。
「あ、うん、―――。
……気のせいだったみたい。」
気のせいなんかじゃ、ない。
今のは、イクラの、声だ、―――。