今宵、桜の木の下で
「……消えた」
「えっ?」
「またいなくなっちゃった」
「どうしたんだよ、さっきから変なことばっかり言って……」
藤木くんにはイクラが、見えていない。
この桜の花びらも、見えていない。
『だから、いったじゃん。
ぼくのことみえるの、おねえちゃんだけだって』
「……っ」
イクラは、―― 私のすぐ後ろにいた。
拗ねた顔をして「ほらね」と口を尖らせている。
「私だけ……?本当に私だけなの??」
『そうだよう』
「じゃあ、藤木くんにも……??」
『うーん、そうみたいだね』
「美琴……??」
『ほら、やっぱりみえてないみたいだよ』
「……嘘」
「おいって。どうしたんだよ」
藤木くんの手が肩に触れて、私はゆっくりと振り返る。
「大丈夫か??」
そこには困惑した表情を浮かべて、私を見入る藤木くんの姿があった。
「……っ、藤木くん。
あの、私、変、だよね……??」
やっぱりイクラは私にしか、見えていない。
「変っていうか……どうしたんだよ」
「あ、あのね……」
イクラに、触れられなかった。
触ろうとしたら、するりと身体がすり抜けてしまった。
「この間から……少し、変で……」
「変って、おいっ、―― 顔が真っ白だぞ」
「何だか……私、――」
……っ、力が……入らないよ……
「……っ、美琴っ―――!!」
私はそのまま、―― 意識を失ってしまった。