今宵、桜の木の下で

「……大丈夫、じゃなさそうだな」


藤木くんは立ち上がると、パイプ椅子を持って私の近くに座り直す。


「まだ、顔色が悪い」


視界が遮られたかと思った。

額にかかる前髪を藤木くんの指が優しくかき上げていく。


「……っ」

「いつもなら、すぐに真っ赤になるのに」

「も、もう……」

「頬っぺたもひんやりしてる」


そんなふうに言われると、じわじわと素直に頬に熱を感じて。


「そんなことないもん……」


恥ずかしさのあまり、顔を隠そうと布団を引っ張り上げた。


「痛いとこない?どこもぶつけなかった?」

「……うん」

「良かった……」


―――――。


ひと呼吸の間と

「あの、さ……」

躊躇うような表情。


何を聞かれるか、もう想像がついたから、――。

私は黙ったまま唇を噛んで身構えた。


「美琴ってさ、なんか……見える人?」


不安な気持ちが一気に募り

「……っ」

動揺を隠す余裕さえなかった。


「あ、いや……今の、気にしなくていいから」


どうしよう、―――。


藤木くんは私を優しい眼差しで見つめている。


「いや、あの…… 桜がって言ったろ??」


桜が、舞っていた。

だけど、藤木くんには見えていなかった。


「こんな時期に桜だ、なんて、――」


……ああっ、―― 何て説明したらいいの??

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