今宵、桜の木の下で
「美琴、あの時、―― 俺の腕を離して……
どこに、行ってたの?って、――
そう言いながら、……嬉しそうに手を出したんだ。
空気を、―――。
…まるで何かを抱きしめる見たいに……。
説明が難しいな、―― とにかく、こう……」
くしゃくしゃっと頭をかきながら、藤木くんはもどかしそうに顔を歪める。
「……一瞬、すっげえ驚いた顔して、俺の方を見て。
泣きそうな顔をして……そのまま倒れたんだ」
イクラの存在は夢なんかじゃなくて、―― 私に向って話しかけてきている。
今までは一人きりの時だったのに、今回は藤木くんも一緒の時に、だ。
幽霊、―――。
こんな話、―― 誰が信じてくれるの??
きっとおかしくなったのかって、思われるだけ。
「俺、美琴がおかしくなったのかと思って……」
……ほら、ね。
いたたまれなくなって目を伏せると、涙が頬を流れていくのがわかった。
「だけど―――」
藤木くんの手からこぼれ落ちたもの―――。
…っ、花びら―――!!
大きく目を見開いた私に、藤木くんは静かに笑った。
「倒れた美琴を運んで、ベッドに寝かせた時。
……これ、美琴の髪に付いてたんだ」
「あ……」
「こんな時期、桜なんてどこにも咲いてないのに」
「う、うん……」
「俺には……全然見えなかったよ」
そうポソリと呟くと、私の顔を穏やかな表情で見つめた。