今宵、桜の木の下で
藤木くんが保健室から出て行くと、ベッドを覆っていた白いカーテンが開けられる。
一気に光が入り込み、私は眩しくなって目を細めた。
「藤木くん、格好いいわね」
長椅子の上に置きっ放しになっていた私の荷物をベッドの上に運びながら、先生は穏やかな中にもちょっと嬉しそうな表情で私を見つめる。
「ちゃんとお礼、言えたの??」
「あ、――」
そういえば、―― ちゃんとお礼、言ってない……かも。
「藤木くん、すっごい焦ってたわよ」
「えっ??」
「入江さんが倒れた時にね、怪我しないように咄嗟に抱きかかえてくれたみたいでね」
――――!!
「慌てて保健室に運んでくれて。土足のまま、よっ」
「そ、そうなん…ですか……」
「ねえねえ、付き合ってるの??」
「……はい」
「倒れた時、そばにいてくれて本当に良かったわね」
「……はい」
どんどん真っ赤になっていく私を見て
「あははっ、顔色、良くなった」
先生は声を上げて笑い出す。
「優しい彼で良かったわね、――。
入江さんが気が付くまでずっと、ベッドの周りをウロウロするんだもん。こっちまで落ち着かないわ」
「あ……はは……」
「ちゃんとお礼、言ってあげてね。
なかなか咄嗟に抱えようなんて、手は出ないものなのよ」
「はい」
頬が緩みそうになるのを、必死に耐えながら。
「ちゃんと伝えます」
本当に、―――。
あの日からいろんなことが起きている。