今宵、桜の木の下で
今日は土曜日、―――。

もうすぐお昼になろうとするこの時間。

私は遅い朝ごはんを食べていた。


「今日は遅くなるから」

「……出かけるの??」

「うん。実家に帰って、それから病院の仲間と久しぶりに会ってくる」


カフェオレの入ったマグカップにお砂糖をひとつ。

それをくるくると混ぜながら、私の前にそっと差し出して。


「……ありがとう」


佳奈子さんはいつも程よい距離感を持って接してくれている。

その優しさに 私はやっぱり甘えてるんだと思う。

それはよくわかってはいるんだけどな。


「じゃあ、13時過ぎには出ちゃうから」

「わかった」


少し息苦しい思いはあるけれど、―― 穏やかな毎日だと思う。



13時過ぎ、―――。

バタン、―― という玄関のドアが閉まる音が聞こえた。

佳奈子さんが出ていったことがわかると、のそのそベッドから起き上がる。


……リビング、行こ。


籠っていた自分の部屋から出てキッチンへと向かう。冷蔵庫からオレンジジュースを取り出して、それを一気に飲み干した。


「ふぁーっ……」


課題をする気にもならないし、テレビでも見ようかな。


シンクにもたれたまま、ソファへと視線を向けた刹那、―――。


「あ……」


するすると頬を滑る、空気の流れ。

ゆらゆらと舞い落ちる、一枚の花びら。


きたきた、―――。

これは……もしかして、イクラがいるんじゃ……??


突然、ふわんっと風が舞ったような空気の渦が現れて

「わっ」

ソファにちょこんと座ったイクラが現れた。
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