今宵、桜の木の下で
「んーっ」

『みこと、ままのところまでいっしょにいってくれるっていったもんっ』


―― 言った。

確かに言ったよ、言ったけどさあ……。


『ねえ、みこと。ママ、いっしょにさがして。イクラ、おうちにかえりたい』

「あ……」


そういうことなのね……。

何で私の前だけに現れるの??ってことは、どうしてイクラが一人ぽっちで、幽霊になってまで彷徨っているのか、に繋がるわけで。

どうしてなのかな??って興味本位だけで質問してしまった自分の浅はかさに、今さらながらに胸が痛くなる。


「お家に帰りたい……か」


幽霊の人探しなんてどんだけ現実感、 無さ過ぎなの……。


『ねぇーってばーっ」


でもなあ……。

幽霊だからって、イクラはまだ小さい。

こんなに小さいのに一人で幽霊やってるんだもんなあ……。


「……わかったよ、一緒にさがそ」


一瞬にして、丸くて大きな黒い瞳がキラキラと輝き出し

「ほんとっ??」

イクラの顔がぱあっと明るくなる。


い、言っちゃったよ。

ほらほら、どうすんの、――??


「出来るかわかんないよ……」


それでもまだ消極的でいる私に

「うんっ」

イクラは満面の笑みを浮かべ顎をくいっと突き上げた。


そうだね……。

ママの所にまで一緒に行ってあげるって言ったのは、私だ。

私だって未だにママに会いたいって思うもん。

イクラはまだこんなに小さいんだし、そりゃあママに会いたいよね。


一緒に探してあげなきゃ、――。


私の中で小さな覚悟が湧き上がる。
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