今宵、桜の木の下で
『みことはさわれないねえ』


何がそんなに可笑しくてたまらないのか

『すこーん、だって』

イクラは仰け反りながら肩を揺らして笑い出す。


「もうっ、――」


そうだった、イクラは幽霊だった。

この可愛い幽霊のママを、何とか探し出してあげたいな。

せめてイクラの……本当の名前くらいは、わかるといいなって。


私は密かに心に誓う。


出来ることは限られているのかもしれない。

それでも納得のいくまで頑張ってみようって、――。




今日は日差しが眩しい。

勢い余って図書館に来たものの、古い新聞を閲覧するサービスなんてものは、この町の小さな図書館にはなかった。


残念……。

ドラマやアニメみたいに、そう上手くいくわけないよね。


出ばなをくじかれたような気がして、もう一度有用な手段を組み立て直してみる。


どうしようかなあ……。

とりあえず、―― イクラが住んでたっていうマンションから探してみようかな。

この辺は昔から戸建ての多い閑静な住宅地だし、マンション自体がまず少ないと思うんだよね。

学生向けのマンションはあっても、ファミリータイプといえば比較的まだ新しいはず。

マンションの12階といえば高層だし、そこで大型犬が飼えるなんて、結構珍しいと思うんだけどなあ……。


「やっぱり交番かな……」


涼しかった図書館の入り口から外へと自動ドアを抜ける。

照り返しの眩しいアスファルトに一歩足を踏み出した時、鞄の中で携帯の着メロが鳴っていることに気が付いた。
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