今宵、桜の木の下で
「あ、美琴?」


藤木くんだった。

通話の向こう側にいる藤木くんに、外の暑さの中にいる私を感じさせたくなくて、私は慌てて図書館へと舞い戻る。


「今、何してる??」

「いや、あの……」


まさか、幽霊の人探しにちょっと…なんて言えるわけもなく

「図書館にちょっと」

適当な言い訳で誤魔化そうとする。


「俺、部活16時までなんだ。美琴が暇ならその後少し会えないかなと思って」


え、―― ちょっと待って。

それって……デート、ですか??


「う、うんっ、大丈夫だよ」


今日は佳奈子さんも遅くなるって言ってたし、イクラの話もいろいろと聞いてもらいたい。


「じゃあ、16時半に駅前の噴水広場で。大丈夫??」

「うんっ」


通話が切れた後もドキドキと高鳴る胸の音が治まらない。

そういえば、学校以外の場所で待ち合わせするなんて初めてかも。

一人でにやにやしていたら、イクラと目が合った。


『みことーっ、なにがおかしいの??』

「……っ」


そうだった。

イクラのママを探すんだった。


で、―― どこで調べればいいんだろう。


―――――。


そりゃあ勿論、あそこに行くしかないわけで。


「あのう……」


そうっととガラスのドアを引いて中に入る。

カウンターの向こうの机にはお巡りさんが一人、座っていた。

この町の小さな交番の中は、エアコンが効いていてひんやりした空気が火照った肌に気持ちがいい。
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