歌声は君へと
『木々の間をすり抜けて、私は貴方に会いに行きましょう』
―――歌ってよ、イシュ。
あの声は、もう聞くことはないだろう。
『何処にいても、どんなことがあっても、私は、貴方のために、祈って』
『届くかなんてわからないけれど、そっと、私は歌うのです』
キアラのベッドから離れ、そろそろ畑にいかなくてはと思う。
まだ広げている途中なのだ。「先に行くね!」と駆け出していくキアラを見送りながら、「あ、お兄ちゃん!」という声に耳をすます。
何を話しているのやら。
言葉が通じない、だなんて子供には関係ないらしい。
キアラはいつも進んで彼のそばにいる。彼もまた、とくに気にしていないらしく、されるがままだ。
…―――不思議な人。
居間となっている場所に出ると、ふっと立っている長身が振り替える。
入口からキアラが鍬を持っていくのが見えた。
顔色がだいぶん良くなってからわかったが、彼は随分体を鍛えているらりいし、凛々しい顔立ちで――――って。
何を見てるんだ私!
不自然なまでに顔をそらし、落ち着け落ち「何故」つけず、さらにびくり、と肩を揺らした。
待って。
今、どこから聞こえた?空耳?
「―――何故、なにもしない?」