歌声は君へと
それは、間違いなく彼が発していて。
戸惑うというより、「貴方、言葉」と本音がもれた。
それもそうだろう。
今まで全然ここの言葉を喋ることはなったのだから。
喋ったとしても、私には全くわからなかった。向こうもまた、私やキアラの言っていることをわからないだろうと思って、あれこれ身ぶり手振りで伝えようと必死だったのに。
喋れるならそう言ってくれ!などとよぎってしまった。しかし、彼にだって事情はあるだろう。
「な、なにもしないって…?」
「殺すとか、俺を」
「なんで私が殺さないとならないの?」
「……違うのか」
ぎょっとする単語が出てきた。
殺す、ってなんだろう?
もしかして、とよぎるのは、"化け物"ということだ。魔物は人を襲う。それは事実だが、化け物はどうか。やはり、イメージは魔物と同じように"襲う"だろう。
だとして、だ。
私が"化け物"であり、襲うだろうと思っていたなら、何故黙っていたのか。あれでは殺してくださいと言っているようなものではないか。
まるで、死ぬのが怖くないみたいな…。
シーツがぱさり、と手から滑り落ちるのを慌てて取ると「何故、そんな姿なんだ」と静かに聞いてくる。
それには色々と思い出すものがあって、胸が痛んだ。
「呪われたの」
なるべく、平然としたつもりだった。
でも僅かに声が震えてしまい、シーツをつかむ手に力が入る。
「こんなだけど元はちゃんとした人間よ。貴方のことも人間も殺さない、元人間、ね」