歌声は君へと
空元気でそういいながら「で」と続ける。
「あの子…キアラは森にいて、私が見つけたの。それからあの大きな狼は魔物だけど、小さい頃に助けてからずっとそばにいるのよ――――ここは、人が寄り付かないから、ここで暮らしているのは、私たちだけ」
「人が寄り付かない?」
「魔物が出るし、深い森だから迷子になるし……人里では魔の森、だなんて呼ばれてるはずよ。だから、貴方がいたときは驚いたんだから」
一番驚いたのはキアラだろうが。
今ではすっかり"お兄ちゃん"と呼んで、それが定着している。
すとん、と近くにあった椅子に腰かけると「そうか」と小さくいう。
それはなんだか、ひどく憔悴したように見えた。
「名前、聞いてもいい?」
「……サイラスだ」
「サイラス、ね。安心して。ここには誰もこないし、スノウもいるから魔物は寄り付かないから。その、好きなだけいられるわ」
イシュお姉ちゃんー!という声にはっとし、「畑に行かなきゃ」と伝えると、「イシュ」と呼ばれた。
私こそ名前をいったわけではないが、キアラがあれだけ呼んでいればわかるだろう。
もちろん、はじめてなことだ。
振り向くと、そこには僅かに表情を和らがせた彼が「ありがとう」といってきたのだから、何だかむず痒さに似た何かを感じ、私は逃げるようにその場をあとにした。
…――――それからだ。
サイラス、と名乗った異国の剣士はキアラにこの国の言葉が喋れることを知られ、また"ぱぁぁぁぁ"攻撃を食らっていたのは。