歌声は君へと





「キアラ、今日はもういいよ。遊んでおいで」

「うん!」 



 鍬は洗ってね、と付け加えその背中を見送る。
 またあちこち回って髪の毛をぐちゃぐちゃにしてくるのだろう。
 スノウは一度私にはちらりと顔を向け、"いってくる"とでもいってるようだった。




「聞いてもいいか」

「なあに」




 今度は雑草抜きに切り替えた私は、そうサイラスに返す。




「俺の、故郷では…魔物に姿を変えられたら、誰かの命が犠牲になればいいという。それは、違うのか」

「そう、なの?」

「ああ。たいてい、そんなことをした者に解けといっても解かないだろう。だから、犠牲の命を捧げれば元に戻ると聞いたことがある」

「命を……」




 私には、わからない。
 どうやったらこんな姿が解けるのか。「だとしても」と私は続けた。




「誰かの命を奪ってまで、私は戻りたくないわ」



 ―――呪われてしまえ!

 私は目を閉じる。今でも、たくさんのことが思い出される。苦しくて、苦しくて、寂しくて、悲しい。何度泣いたかわからない。冷たい拒絶。化け物。そう、私は化け物だ。見るがいい。下半身は蛇の体だ。「たとえ、貴方が死にたがったとしても」と、鎌をかけるようにいうと、サイラスの表情が強ばった。

 おかしい、と思ったのだ。

 彼は、私を見たとき驚いた。それはそうだ。人間の体と蛇が半分半分となったその姿は、魔物と似たようなものだから。

 だが、それだけだ。
 驚いたが、それだけ。

 キアラは、悲しそうな目をしていたといっていた。悲しそうな、目。
 何か、あったのではないのか。
 


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