歌声は君へと




「――――っ!」




 飛び上がるようにして起きた。
 ……夢。

 そこはいわゆる、"小屋"だ。長く暮らせるようなものではないのは明らかで、しかしそれでも暮らしているらしい跡が見られた。
 元々は、山小屋だったらしいことは、キアラから聞いていた。

 息をはく。
 
 ずいぶん前の記憶だ。あれは、兄が死んだあたりだから、昔の……。
 額に滲んだ汗を拭う。

 怪我はもう治っていた。
 不思議なことに、彼女が歌を歌えば、怪我なんかの治りが早いのだという。キアラから出てくるものは、彼女のことばかりだ。それもそうか。ここには、彼女らしかいないというのだから。

 死んだと思っていた目の前に、彼女がいた。僅かに微笑んだそれが、昔話の、砂漠の女神を思い出した。
 しっかりと目を覚ましたあとで見たあの姿は――――魔物だと思った。人ならざる者。



 殺されるなら、それでいい。



 だが――――。
 死んじゃ駄目よ、といった彼女に、妹が重なったのだ。
 お前に何が、と思った。だが、彼女だって何かあったからあんな姿なのだ。わかった、だなんていった自分に自嘲ぎみな笑みが浮かぶ。




『何を馬鹿な』




 母国語でそう呟いたとき、なにかが聞こえた。
 ここは森である。
 彼女は魔物は近寄らないといっていたが、と剣を手に外へ向かう。万が一、と考えた。万が一魔物だったら、彼女がどうこう出来るとは思えない。

 入り口すぐに、スノウがいた。こちらに気づいて顔をあげたが、警戒した様子はない。なら、と周囲を見て、あ、と思った。

 ――――…人だ。
 
 外には、大きな木が沢山ある。
 この家のすぐ近くにもあり、根が出ているのだか、"人"はそこに腰かけていた。




『目を閉じて、愛しい子。現実は悲しいことばかりだから、束の間の夢を見ましょう』



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